1988 奈良県生まれ
2017 「Bridge Art and Craft 工芸ブリッジ」GYRE/東京都
2018 金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科
工芸研究領域 金工分野 博士号取得
2021 「お引越し造り-工芸論の動態-」Gallery O2/石川県
2022 「表出するかたち」旧喜多家邸宅/石川県


引っ越しを経ても、まだ今の家の中に残っている。開けずに放ったままの段ボール箱である。中身にはもう、関心はない。無くて困るものは入っていない。
けれども、その段ボール箱を目にすると、以前の家の様子を思い出すことがある。
そんなことがあるから、普段使わない部屋の隅に積んだまま。その段ボール箱に、窓からの光が先の尖った三角の形で当たっている。もう実在しないはずの過去の生活空間が、常に活きたものとして立ち現れるようになる。
部屋を掃除するとき、私はよくこの段ボール箱と光の形を目にする。
昔住んでいた家のことや生まれ育った場所での光景をいいかげんに思い出しながら、床を拭くのである。
そして掃除の度にいつも、テーブル近くにある床の凹みに気がつく。何度も目にしているので、その凹みの様子は、きっかけがあれば鮮明に思い出せてしまう。この凹みに特別な思い入れはない。けれどこの凹みの形はきっとこれから、今の生活の様子を思い出させるきっかけになる。
木谷 洋
「の 来しかた」
木谷 洋 + 山森菜々恵 - 工芸・新たな美的価値を求めて -
現代工芸の新しいものを生み出さなければならないという強迫的なもの、テクスチャーや表層に追い回されることへ違和感や疑問を持った本作家二人の考究の展覧会。
木谷は過去続けてきた金工のしごとの手を止めて、工芸と人とのかかわりを主題に「道具と機能」を考える。
山森は漆の技法にそぐわない困難な原型を作り偶発するできごとに対して丹念に辛抱強く素材の可能性を探っている。