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FUJINO Seiichiro  (Laquer)
藤野 征一郎(漆)

1972    滋賀県生まれ

藤野征一郎 個展 ギャラリーO2

造形とは、読んで字のごとく形をつくることをいい、造形芸術はまさにそれを目的とした【術】です。作者が選んだ物質が物理化学的作用を経て変容し、その行為であり、結果であるかたちを前に私たちは思わずため息をもらします。ため息の発生源はそれを美しいと認めたところにあり。そのことが芸術を他の術と分けています。

今回、藤野征一郎の《2023 Stormy Line No.1 “Like a Dragon”》に向き合った人も、きっと胸を弾ませる自分の呼吸に気づくことでしょう。円弧を描くシャープなライン。伸び上がり、急旋回して大きく反りながら細い先端へと続きます。接地面はその先端と、始点となった三角形の(だが底辺が軽く浮いているので)2つの角だけ。アクロバティックでありながら無駄がなく、しかし若干のスリルを秘めた様子がスピード感を増して見せる。あらためて造形とは、それをやり通す意志の表れかと思わせます。

ところで実は本作、組木で成形され、随所に金属による強度ケアも施されているのだそうです。だからといって作品の価値が減ずることはありません。複数パーツで構築したものが、1本の枝をしならせたよりもらしく一気呵成を体現する、それが肝要。エッジに貼りつけたクス材小片からも迸る勢いを感じさせるようではないですか。なんといっても芸術とはフィクションであり、だからこそ生のママの現象よりも心を揺さぶるのです。漆の実相にしても同様で、私たちが漆と知っているのはすべて精製され、塗り、磨かれたもの。これを自然物といい切れる人はいるのでしょうか。この作品でも漆の表情は2方向で提示されており、呂色仕上げをした面では、徹底的に艶出しされた塗膜が表層に光を走らせ、空間との境界をおぼろにしました。これもまた造形。

「私にとって制作とは、冒険のようなもの」という藤野。まんまとその思惑にはまったようです。

 

今井陽子(国立工芸館主任研究員)

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